多結晶モジュールは“今どうなっている?”

コラム
投稿日:2025年12月4日 / 更新日:2025年12月5日

~技術的背景と、FIT初期案件リプレースで見えてきたリスク~

FIT制度が始まった2012年前後、日本中で太陽光発電所が一気に増えました。
その時代に主役だったのが「多結晶モジュール(Polycrystalline)」です。

そして今、その多結晶モジュールが設計寿命の折り返しを迎え、リプレース(モジュール交換)フェーズに入ってきたことで、

「旧サイズのまま、多結晶で交換したい」

というご相談がEPC・施工会社様から急増しています。

一見すると、「元と同じタイプで交換する」のは無難に思えます。
しかし、技術的・市場的な背景を踏まえると、この判断はかなり慎重に検討すべきです。

このコラムでは、

  • 多結晶モジュールとはどのような技術なのか

  • なぜ「品質が安定しにくい」と言われるのか

  • FIT初期案件のリプレースで、多結晶の弱点がなぜ顕在化しやすいのか

  • なぜ今は「旧サイズ × 単結晶」でのリプレースが合理的と言えるのか

を整理してお伝えします。


目次

1. 多結晶モジュールとは何か

「旧世代の標準技術」になった背景

多結晶モジュールは、多結晶シリコンを用いた太陽電池モジュールで、
複数の小さな結晶粒(グレイン)が集まって一つのセルを構成していることが最大の特徴です。

  • 1990年代〜2010年代前半:世界標準として広く普及

  • 日本でもFIT初期案件の多くが多結晶を採用

  • 「量産しやすく、当時としてはコストパフォーマンスが高い」技術だった

当時は 「多結晶=標準」「単結晶=高級」 という位置づけで、
コストを重視するメガソーラーなどでは多結晶が主流でした。


2. 現在の生産状況

「技術的には作れる」が、主要メーカーはほぼ撤退

今でも多結晶モジュールは技術的には製造可能です。
しかし、世界の太陽光市場はすでに単結晶モジュールが完全な標準技術となっており、多結晶ラインは急速に縮小しています。

その理由はシンプルです:

  • 単結晶の量産が進み、モジュール価格が多結晶より安くなった(コスト逆転)

  • 単結晶の方が、変換効率・温度特性・出力均一性のすべてで優位

  • 各社の投資が PERC/TOPCon/HJT など「単結晶系高効率セル」に集中

  • 多結晶ラインを維持しても、投資回収のメリットがほとんどない

その結果、

「多結晶を本格的に作り続けている工場は、ごく一部に限られる」

という状況になりました。
「作れないから減った」のではなく、「作る必然性がなくなった」というのが正確です。


3. なぜ「多結晶は品質が安定しにくい」と言われるのか

ここが技術的には一番重要なポイントです。
多結晶そのものが“不良技術”というわけではありませんが、構造と市場の変化によって、単結晶より不利になりやすい条件が重なっています。

3-1. 粒界(グレインバウンダリ)が多く、電子が流れにくい

多結晶セルの内部には、結晶と結晶の境目=粒界が多数存在します。

粒界は、

  • 電子が流れにくい

  • 不純物が集まりやすい

  • 劣化が進みやすい

  • 局所的な発熱(ホットスポット)が起こりやすい

という特徴を持っています。

その結果として、

→ 単結晶よりも変換効率が低く、長期の劣化耐性も劣る傾向

が生まれます。
ホットスポットに関して「多結晶は構造的に不利」であるというのは、この粒界の存在が背景にあります。


3-2. セル品質のバラつきが出やすい製造プロセス

多結晶インゴットは鋳造法(鋳込み)で作られることが多く、

  • 温度ムラ

  • 不純物分布のムラ

  • 結晶粒サイズの不均一

  • 膜厚や反射防止膜のムラ

などが出やすいプロセスです。

そのため、

→ 出荷時のフラッシャー値にバラつきが出やすい

という傾向があります。
単結晶は単一結晶構造である分、このバラつきが小さく、モジュール間の均一性が高くなりやすいのです。


3-3. 多結晶ラインは“古い設備”が多い

世界的には、

単結晶 → 単結晶PERC → TOPCon/HJT

という形で技術進化が進み、投資もそちらに集中してきました。

一方、多結晶ラインを残している工場は、

  • 設備更新が進んでいない

  • プロセス制御が旧世代のまま

  • 歩留まりが単結晶ラインより低い

  • 自動化率が低く、人手依存が多い

といったケースが多く、

→ 「多結晶=品質が悪い」というイメージ

を市場に強く残す一因となりました。


3-4. 日本のFIT初期に「粗悪多結晶」が大量流入した歴史

日本固有の事情として、2012〜2016年のFIT初期には、

  • ノンブランド品

  • 小規模工場製の低価格品

といった多結晶パネルが大量に輸入されました。

その一部で、

  • PID

  • EVAの黄変

  • バスバー剥離

  • ホットスポット

  • ジャンクションボックス不良

  • シール不良

などのトラブルが多発し、

→ EPC・施工会社の間で「多結晶=粗悪品」という印象

が強く残りました。

本来は「多結晶という技術」+「古い製造設備」+「粗悪品の流入」が組み合わさった結果なのですが、現場の印象としては一体化してしまっています。


4. 「技術的に悪い」わけではない。それでも“今あえて多結晶を採用しにくい”理由

ここまでをまとめると、多結晶は

  • かつては標準技術だった

  • 現在も技術的には製造可能

  • ただし、構造上・市場上は単結晶に完全に主役の座を譲った

という立ち位置です。

言い換えると、

✔ 多結晶は「旧世代の標準技術」
✔ 単結晶は「現在の標準で、性能・コストともに上位互換」

という関係になっています。

そのうえで、FIT初期案件の「リプレース」という文脈で考えると、さらに重要な論点が加わります。


5. FIT初期案件のリプレースで、多結晶の弱点が“より顕在化しやすい”理由

現場で実際に起きているのは、

「新しい多結晶に交換したのに、その後ホットスポットが増えた」

というケースです。

これには “経年劣化した現場環境 × 多結晶の構造的弱点” という組み合わせが関係しています。

5-1. 影・汚れ・周辺環境が当初より悪化している

交換のタイミングでは、設置から10年以上経っている発電所が多く、

  • 周囲の樹木の成長で影が増えている

  • 近隣建物や設備の影が伸びている

  • 汚れ・鳥害が蓄積している

といった変化がほぼ確実に起きています。

部分影や汚れがある環境では、多結晶セル内部の電流がさらに不均一になり、粒界部分で局所発熱が起きやすくなります。


5-2. FIT初期の架台設計は「影に弱い」ケースが多い

FIT初期には、

  • パネル高さが低い

  • 列間・段間の余裕が小さい

  • 前列の影を拾いやすい配置

といった架台設計が少なくありませんでした。

このような影を受けやすい条件と、多結晶の「影に弱い構造」が組み合わさることで、
リプレース後にホットスポットが目立ち始めるケースが見られます。


5-3. 古い配線・ストリング構成とのミスマッチ

新しい多結晶モジュールを、既存のストリングや工事当時の設計にそのまま載せ替えると、

  • ストリング内の電流バランスが微妙に崩れる

  • 個体差の大きいモジュールが混在する

といった要因から、多結晶側の弱点が表に出やすくなります。

ここまでの話をまとめると、FIT初期案件のリプレースで多結晶を採用すると、

「現場の経年変化」 × 「多結晶の構造的弱点」

この掛け算で、交換後にトラブルが起きやすい土壌が整ってしまっている、ということです。


6. では、なぜ「旧サイズ × 単結晶リプレース」が合理的なのか

こうした背景から、アップソーラージャパンでは、

「旧サイズはできるだけ維持しつつ、中身は単結晶へ移行する」

というリプレース方針を基本としています。

6-1. 同じ設置面積で、発電量アップが期待できる

単結晶は多結晶より変換効率が高いため、
同じ屋根面積・同じ枚数でも発電量が改善するケースが多くなります。

  • FIT終了後の自家消費ニーズ

  • 出力抑制下での売電効率最大化

といった観点からも、少ない面積で高い出力が出せるメリットは大きいと言えます。


6-2. 影・汚れに対して安定し、ホットスポットリスクが低い

単結晶は結晶構造が均一なため、電流の流れも均一になりやすく、

  • 部分影による電流不均一の影響が小さい

  • ホットスポットが発生しにくい

  • 長期劣化時のばらつきも小さい

という特性があります。

つまり、すでに影や汚れが増えているFIT初期設備との相性を考えると、
多結晶より単結晶の方が「むしろ安全」
なのです。


6-3. 世界標準技術であり、長期の供給・保証の見通しが立てやすい

単結晶は、今後の高効率技術(PERC/TOPCon/HJT など)も含めた
世界の標準プラットフォーム です。

  • 10〜20年スパンで見たときの供給継続性

  • 補修・追加リプレースのしやすさ

  • 施工ノウハウ・部材調達の面での安心感

いずれの観点からも、縮小していく多結晶に依存するより、単結晶に軸足を移しておいた方がリスクは低くなります。


7. 「旧サイズを活かしつつ、単結晶化する」リプレースの進め方

ソーラーデポ運営元のアップソーラージャパンでは、旧サイズパネルをご利用中の発電所に対して、

  • 既存モジュール寸法・レイアウトの確認

  • 架台寸法は可能な限りそのまま活かす設計案

  • 多結晶 → 単結晶へのスムーズな置き換え

  • 発電シミュレーションによる「ビフォー/アフター」比較

  • 影リスクを考慮したストリング設計・モジュール選定

といったサポートを提供しています。

旧パネルの型番やデータシートが手元にない場合でも、

  • パネル写真(裏面)

  • 寸法の実測値

  • 図面情報

などから仕様を推定できるケースも多く、
「安全性・発電量・将来性」の3点を同時に高めるリプレース案の構築が可能です。


8. 旧サイズパネルの交換をご検討中の皆さまへ

もし、次のようなお悩みがあれば、
「多結晶でそのまま交換」の前に、一度立ち止まって検討する価値があります。

  • FIT初期の多結晶パネルを、そのまま多結晶で交換しようとしている

  • ホットスポットや早期劣化のリスクをできるだけ抑えたい

  • 架台寸法やレイアウトをあまり変えずに、性能だけ上げたい

  • 将来の再交換・補修まで含めて、長期的に安心できる構成にしたい

旧サイズパネル・後継品のご相談はこちら

案件ごとの条件をもとに、
「旧サイズ × 単結晶」という中長期的に合理的なリプレース案を、技術的根拠を添えてご提案いたします。


9. まとめ:

「多結晶“復活”」の流れに、そのまま乗ってよいか?

  • 多結晶は今でも技術的には製造可能だが、世界の主流はすでに単結晶

  • 多結晶には粒界や製造プロセス由来の構造的弱点があり、品質ばらつきが生じやすい

  • FIT初期の現場環境(影・架台設計・配線の経年劣化)と組み合わさることで、リプレース後に弱点が“より”顕在化する

  • 「旧サイズだから多結晶」は、“ほかに選択肢が少ないから選ばれている”側面が強い

  • 長期運用を前提としたリプレースでは、「旧サイズ × 単結晶」への移行が、発電量・安全性・将来性のすべてで合理的

太陽光発電所は、今だけではなく「これから10〜20年」の設備です。

だからこそ、
「いま市場に残っているから」ではなく、「この先も安心して使い続けられる技術かどうか」
という視点で、モジュールの選択肢を検討していただければと思います。

関連記事

(太陽光パネル破損・故障)旧サイズのパネルが無い場合

【参考文献・技術レポート・公式統計リスト】
■ 国際研究機関(信頼度A:技術的根拠)
● NREL(National Renewable Energy Laboratory, USA)

Best Research-Cell Efficiencies
https://www.nrel.gov/pv/cell-efficiency.html

→ 単結晶が多結晶より一貫して高い効率を維持していることを示す主要データ。

PV Module Reliability Scorecard(NREL協力)
→ 多結晶モジュールにおける PID/LID/熱サイクル/湿熱テストなどの信頼性差が確認できる。

● Fraunhofer ISE(Germany)

Photovoltaics Report
https://www.ise.fraunhofer.de/

→ 世界のセル生産量が2018年以降「多結晶 → 単結晶」へ急速に移行した市場統計。

Annual PV Production Data
→ 多結晶の製造比率が世界全体で10%以下に低下した推移を掲載。

● IEA PVPS(International Energy Agency – PV Power Systems)

Trends in Photovoltaic Applications
https://iea-pvps.org/

→ 多結晶の世界市場シェアが減少し、単結晶が主流であることを裏付ける国際報告。

■ 業界技術メディア(信頼度A〜B:市場分析・技術動向)
● PV-Tech

“Polycrystalline to Monocrystalline transition in global PV manufacturing”
→ 多結晶ライン縮小の理由(効率・コスト逆転・投資集中)を分析。

“Supply chain evolution in crystalline silicon PV”
→ 多結晶ラインが老朽化し歩留まりが低いことを指摘。

● SolarPower Europe – Global Market Outlook

→ 世界市場で単結晶(Mono-PERC / Mono-TOPCon / HJT)が実質標準となったことを示す。

■ 学術論文(信頼度A:技術的メカニズムの根拠)
● Journal of Applied Physics

“Grain boundary recombination in multicrystalline silicon”
→ 粒界(グレインバウンダリ)で電子が再結合しやすく、効率・劣化に影響する構造的根拠。

● Progress in Photovoltaics

研究テーマ:多結晶セルの劣化・PID・ホットスポットメカニズム
→ 多結晶が影環境でホットスポットを起こしやすい理由を詳述。

● A. Goetzberger, “Crystalline Silicon Solar Cells”

→ 太陽電池の基礎構造として、多結晶セル内の粒界が劣化を促進するメカニズムを説明。

■ 信頼性評価レポート(信頼度A:ホットスポット・劣化)
● DNV-GL / PVEL Module Reliability Scorecard

→ 多結晶の PID・LID・ホットスポット・TC/ DH 試験での傾向が確認できる。

● TÜV Rheinland – PV Module Test Reports

→ 結晶系セルの影響因子(影、熱、電流ばらつき)に関する信頼性評価。

■ 市場データ(信頼度A:生産量・供給動向)
● BloombergNEF (BNEF)

PV Market Outlook
→ 多結晶の市場占有率が急激に低下した推移。

● Asia Europe Clean Energy Advisory (AECEA)

→ 中国主要メーカーの生産計画から、多結晶ラインの閉鎖・縮小トレンドを分析。

■ 日本国内(信頼度B:FIT初期の市場状況)
● 経産省「再エネ大量導入期の太陽光パネル品質課題まとめ」

→ FIT初期に低品質多結晶が流入した背景・課題。

● JPEA(太陽光発電協会)技術資料

→ モジュール劣化要因・影条件下の出力特性。